店舗としてのCDショップの価値とは(1)

 2020年は、新型コロナウイルスの影響により、エンタテイメントに対する制約が多い年でした。毎年3月に行われているCDショップ大賞授賞式に関しても、2020年度はマスコミ関係者の来場をお断りし、受賞アーティスト関係者の来場も最低限に留めた形で開催しました。 

 アーティストやコンサート関係者はもちろんですが、2020年3月の緊急事態宣言下においては、CDショップも店舗休業などを余儀なくされました。音楽業界全体が困難な年ではありましたが、全国各地のCDショップは、店舗規模を問わず、多くの人が安全に楽しんでもらうように、工夫を凝らして営業しています。

 社会情勢に伴い、オンラインで物事を進めることを強く推奨される中で、実店舗としてモノを売っていくCDショップの存在について、CDショップ大賞にも尽力頂いている2名の女性に伺いました。

 1人目は、山野楽器 EC営業課 仲西正代さん。山野楽器で店舗スタッフからマーチャンダイジングなどの本部業務までを経験し、現在はEC営業課で勤務。2人目は、平安堂 物販事業部 秋澤加代さん。長野県内で直営14店舗を持ち、書籍、CD、文具・雑貨、ゲームなどを幅広く販売する老舗企業で、店舗スタッフ、本部業務を経験し、現在は物販事業部に所属しています。


売れ筋は自分で見つけてくることもある

―TVやラジオで曲を聴いてCDを買うという、CD購買に繋がる道筋には大きな変化はないかと思います。ここ10年くらいの売れ筋の傾向CDってありますか?

平安堂 秋澤(以下 秋澤):なかなか売れ筋の傾向は、ないですよね…。新しいアーティストはどんどん増えてきているっていうのは確かに感じるんですが。それに、米津玄師さんが出てきたところから、何かが変わってきている感じはしますね。ジャニーズさんやアイドルは別として、例えばJ-POP、邦楽でも決まった傾向があるわけでもなく、定着したアーティストがいるわけでもなく、 “なんか新しい人が出てきたね”といった感じが、特に最近増えてきたように思います。
2016年くらいかな…?確実に売れるけど、定番化しているなと個人的に思っているアーティストばかりが店頭に並んでしまい、新鮮味がなく“このままでは、ちょっとマズいな。”“新しい人を見つけないと”と、都内近隣の他のCDショップを全部回りました。(平安堂の販促本部があるのは都内)
新しいアーティストをYouTubeで探しても良いんですけど、そうすると仕組み上、自分の好みのものしか出て来なくなってしまうので、お店に行って視聴するしかないと思って。それで、自分で良いなと思ったアーティストのCDを、ハピネットさん(CDの流通会社)に、“これ返品条件つけられませんか?”って交渉したんです。(本来CDは自由に返品できないので、メーカーとの間に立つ流通会社に交渉をしている、という意味。)

そうやって探している当時、最初に気になったのは、やはりSuchmosでした。“おっ!”と思って。そうしたらスグにテレビ出て…。平安堂も『MINT CONDITION』(2016年7月6日発売)の時点で、何店舗かで入荷しました。


―そうやって足で稼いだというのもあるんですね。Suchmosに関しては、TVCMなどに起用されて、あっという間に人気に火が付きましたね。

山野楽器 仲西(以下 仲西):『関ジャム』(『関ジャム 完全燃SHOW』/テレビ朝日)とか今、若い人が見ている番組で取り上げられると次の日、バーンと売れたりとかします。

秋澤:だから絶対、『バズリズム』(『バズリズム02』/日本テレビ)と『関ジャム』は見ますよ。


配信限定!言っても“CDはあって当たり前”と思う人もいる。

仲西:実は私、『バズリズム』の「これがバズるぞ」番組アンケートに、ニガミ17才(*1)を推したんですけど2位だったんですよ。私以外に推してる人がそれだけいるんだって嬉しかったんですが、CDはリリースしていないんですよ。業界全体で盛り上げるんだったらCDショップと一緒に盛り上げませんか?っていうのは思いますね。あと、結局買う人はCD売り場に来たりとかするんです。なのにCD出してないとか、配信だけとか、○○限定とか。CD出してくれればいいのにって思うのが多いんですよね…。

秋澤: TVやラジオで、“楽曲配信中!”と言っているのに、CDもリリースされていると思ってお店に来る人もいますよ。配信だけじゃなくて、CDも出してください(笑)


―若い人は配信。だから若い人が以前より来なくなった、とかっていうのはありますか?

秋澤:いえ、若い人は特典が欲しいから来ます。

仲西:若いからっていうよりは、買わない人は買わない、買う人は買うっていう感じです。


J-POPという括りはもう通用しないかもしれない。

―お店での商品の配置やレイアウトなどで、客層を意識していることはありますか?

秋澤:2000年代前半に、平安堂では、どちらかとアラフォーから50代、60代までを重点的にした売り場にしようってしたんです。その世代の人達が懐かしむような、60年代、70年代、80年代をフィーチャーして。邦楽も 「J-POP」っていう言葉が市民権を得ていたので、「J-POP」と「大人の邦楽」って完全に分けたんです。

そういう売り場を作ってたんですけど、年々「大人の邦楽」のアーティストが増えてしまうし、J-POPは細分化されている感じもしてしまい…。それに、今の若い人たちのやっている音楽が、60年代〜80年代に影響を受けてるのが、ハッキリと見える感じがするんですよね。そんなこともあり、売り場を分けずに “一緒に並べちゃえばいいじゃん”って感じにもなってきて、また売り場を戻し始めたんです。

―例えば、あいみょんも影響を受けたアーティストが浜田省吾さんとかスピッツとか言っていますね。ちなみに、「大人の邦楽」というのは、具体的にはどういうことですか?

秋澤:簡単に言うと「昭和」が大人。「平成」がJ-POPに分けていました。だけど平成の前半だけリリースをしている人や、リリースが止まっているアーティストは「大人の邦楽」にしています。そうするとサザンオールスターズみたいに、昭和にデビューして、リリースが今も絶えない人たちの作品の配置に困るんですよ(笑)

仲西:山野楽器も一時期、世代や年代で分けた方がいいんじゃないとかいう話がありました。でもサザンとかユーミンとか、今も変わらずにライブしているし、幅広い層に売れてるからJ-POPに入れた方がいいよとか、そういうこともあり、結局分けるのやめるちゃったんですよ。それに、J-POPっていう括りがもう…。米津玄師さんとかYOASOBIとか、ネットから出てきて「J-POP」っていうニュアンスじゃない人が増えてきたと思いますし。

秋澤:もうJ-POPっていう言葉自体が恥ずかしくなってきたっていう感覚はありますね。

仲西:「ネット発」とか、もうちょっといい呼び方ないのかな?って。今、私たちも売り場で展開してるんですけど。みんなで「クリエイターなんとか」とか…。なんかピッタリくる良い言葉がないのかね、って困っています(笑)

秋澤:ネットと言っても、ボカロ、YouTube、TikTokと、いろいろなものがあるので、それを、ネットっていう一括りでいうと…。


エヴァも放送から25年以上経過 リスナーだって年を取る。

仲西:CDのジャンル分けって、いろいろ難しいですよね。ADAMat(*2)もジャズのコーナーだけでいいの?とか。(ADAMat:アダムアット。ピアノ・インストゥルメンタル・セッション・バンド。ジャズ寄りの楽曲が多いが、親しみやすくアニメなどでも起用されている。)

それと、結構YouTubeを見て来店する人が多いんですね。そういうのを見てCDを買うっていう傾向も強まっているなと実感しています。先日、テレビでアニソン人気投票の番組があって、そこで『新世紀エヴァンゲリオン』の「残酷な天使のテーゼ」が、1位だったんですよね。(テレビ朝日『アニメソング総選挙』2020年9月6日放送)番組で「残酷な天使のテーゼ」を支持する年代に、60代が入っていて。 “アニソンが、なぜ60代に売れてるのか?”ってびっくりしたんですけど、よく考えたら今は60代でも、アニメが始まった時は30代だった人もいるから、それは当然ですよね。事実、ユーミンとか徳永英明さんとかを普通に聴くんですよ、60代が。逆に、20代は生まれた時からネットありきですから、「ネット発」っていうか、それが普通。私たちが、テレビ見てきているのと同じレベルでなわけなんです。


2へ続く。


*1 ニガミ17才

おしゃれ且つ変態な楽曲の表現。というテーマのもと、2016年結成。岩下優介(Vo)を中心に、小銭喜剛(Dr)、イザキタツル(Ba)、平沢あくび(Syn)の4人で結成されたクリエイティブバンド。全員偶数月生まれ。

*2  ADAMat

2011年12月キーボーディスト、ADAM at(本名の TAMADAを逆から読むとADAM atになることから命名)を中⼼に静岡県浜松市のライヴハウスでインストゥルメンタル・セッション・バンドとして活動を開始。数多くの国内外のフェスティヴァルにも出演する他、テレビ、ラジオのCM音楽やテーマ曲を多数手掛ける。第12回CDショップ大賞2020のジャズ賞受賞。


【対談者経歴】

仲西正代株式会社山野楽器 EC営業課 係長

1994年 入社
新店舗立ち上げ、リニューアル、マーチャンダイザー、店長を経て今に至る。インディーズからゆず、SEKAI NO OWARI、Official髭男dismなどを大きく打ち出して展開。CDショップ大賞実行委員長を歴任し、数々の取材対応も経験。フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』2020年8月8日放送にて、音楽業界に携わるプロ99人として出演。


秋澤加代
株式会社平安堂 物販事業部 
1988年 株式会社STACT入社 (*星光堂出身者によるショップ指導と販促事業を行う企業)

1992年 株式会社平安堂入社し、一度退職後、1999年復職。

STACT時代では、店舗販促物作成、販売を担当。平安堂にて、レンタル・セル担当の主任、 レンタル商業組合プロモーション委員会に立ち上げ時より参加。現在は、物販事業部 マスター・チーフ・バイヤーを担当し、全店舗の企画やセールスプロモーションなどを行う。


聞き手:髙安紗やか(CDショップ大賞事務局長/ミュージックソムリエ協会理事長)

構成・編集:石井由紀子(ミュージックソムリエ)

NPO法人ミュージックソムリエ協会

NPO法人ミュージックソムリエ協会は音楽に関与する人材を発掘し、育成し、音楽とその周辺のソフト産業の活性化・多様化をもたらします。

0コメント

  • 1000 / 1000