店舗としてのCDショップの価値とは(3)
2020年は、新型コロナウイスの感染拡大防止の観点からも、新しいライフスタイルが求められた年でした。さまざまな接客業もその流れに合わせて苦心をしてきましたが、CDショップもその例外ではありません。しかしながら、実店舗には、リアルならではの楽しみがあります。流通の川下にいるからこそ見える景色、CDというパッケージ商品そのものの存在について、CDショップ大賞にも尽力頂いている山野楽器 EC営業課 仲西正代さんと、長野県で14店舗を展開する企業 平安堂 物販事業部 秋澤加代さんに伺っています。最終回では、ショップだからこそできること、そしてショップの未来についてお話頂きました。
パッケージ商品とは円盤型の再生ツールではない
(SNSで話題になったアーティストのCDを買いにくるケースもあるという話を受けて)
―YouTubeやそのほかのSNSで情報を手に入れて、そのまま聴くこともできますが、やはりお店に来てCDを買う若い人たちもいるのですか?
平安堂 秋澤(以下 秋澤):ファン心理として“持っていたい”っていうのがあるのかもしれませんね。小学生や中学生だと、スマホを使うのを制限されているじゃないですか。でも、やっぱりもっと聴いていたいとかそいういう心理もあるんじゃないかな。ただ好きな音楽を聴くだけじゃなくて、ファンになると所有したくなる、という感じで。ただ、もしかしたら、いつか“持っていたい”というものが、CDのような盤では無くなるかも。
山野楽器 仲西(以下 仲西):それはありますよね。
秋澤:アーティストのオリジナルカードみたいなものをお客さんが持ってきて、そのカードの特典をストックから出して渡すようになるんじゃないか?みたいなことを、昨日お店のスタッフとも話していたんですよ。
仲西:楽曲ダウンロードカードみたいなのを買うようなね。でも、売るものの中心がCDじゃなくなっても、私はCDショップは音楽を売る店舗になると思うんですよね。
一緒に探して欲しい…という依頼にも応えるのがお店
―音楽を売るって良い言葉ですね。オンラインでもモノが買える時代ですが、ショップで販売しているからこそ…という醍醐味などはありますか?
秋澤:マニアックなものをお探しのお客様にブルースのCDをお勧めできた時とか、あとはエアロスミスを探している方に、ちょうどスティーヴン・タイラーの新譜が出たんですって言ってもう1枚買って頂いたことか。日常的にそういうことが出来るのは良いですね。
仲西:そうですね。
秋澤:こういう時代だからこそ、接客技術というか対面感受性を上げていかないと、なかなか小売は厳しくなっていくだろうなっていう気はします。お客様が求めているものを汲み取る力や、棚をきちんと整理して、話題になったものを見つけやすいところに並べておくとか。(安全対策も取るのはもちろんですが。)
仲西:お店の入り口などで目立つように陳列しているのを「面陳列」って呼んでいるんですけど、例えばテレビで取り上げられたアーティストを面陳列にすると、すぐに売れるんですよ。ちゃんと陳列に手を加えると、こういうことが良く起こるんです。お店は生きているなって思います。
秋澤:そうなんです。陳列棚とかも毎日掃除しているから、埃かぶっているわけじゃないんですよ。それでも、鮮度を良くすることで、ちゃんと動きがあるんですよね。
―配信やYouTubeなどでは自分の好みの作品がたくさん出てきますが、お店はそうではない。だからこそ出会える音楽もあるかもしれませんね。
仲西:お店に来る方の理由の中で、“一緒に探して欲しい”というのが、とても多いんですよ。タイトルが分からないから、鼻歌を歌って下さったり、歌詞のストーリーを説明して下さったり。どの曲か分からないから探して欲しいとリクエストされるんですよね。売り場の若いスタッフは、ネットなどを使って、そういうのは上手に探し当ててくれます。本当に、これは私たちよりも、全然上手です(笑)
秋澤:そうそう、やっぱり若いスタッフが上手いんですよね(笑)
仲西:お客様にすっきりとした気分でお帰り頂く、という経験を大事にしていければ。一緒にお調べして欲しいものを手に入れるお手伝いができればなと思います。
プロであるという自覚を持って
―たくさんの方と一日中音楽の話をしているってことですから、CDショップ店員も音楽のプロですね。
仲西:そうですね。テレビ番組『99人の壁』(*1)でも「音楽のプロ」って紹介されて、お客様にも我々のことをそう言って下さる方も実際にいらっしゃいます。だからどこの店員さんにも、もっと「音楽のプロ」っいう意識に立った方がいいと思うんです。意外とその辺を思っていない人も多い気がします。
秋澤:演歌やクラシックやジャズって到底かなわないっていうときは、お客様のお話を聞くこともあります。ちょっと前ですけど、『ボヘミアン・ラプソディ』が流行ったじゃないですか。その時に、ファンの女性が懐かしくて昔を思い出して、どんなに素晴らしいかお話して下さったんですよ。私たちが話を聞くので、お客様も気持ち良く帰って頂けるんです。そうすると、私たちも気持ちのいい接客もできるし、ファンの方の想いを知ることが出来るんです。
仲西:それと、せめて自分の店に何があるのかは知っておいて欲しいと思います。ポップを作ったりする時に、アーティスト名を間違えるのが一番ダメだと思うんですよね。残念ながら意外とあるんですよ。だから、お店に出す時には、よく注意します。この仕事している限り、そのあたりは敏感になっていないと。思い違いをせずに、読み方はちゃんと調べて覚えて欲しいです。そうしないと、お客様から問い合わせが来ても、検索できないってこともあるし。最近、SNSやオンラインでもアーティスト名の読みを間違われている方もよく見かけるので、敢えてアーティストやタイトル名に<読み>と書くようにもしています。
秋澤;うちもそうです。うちは本や雑誌、ゲームなども扱う複合店なので、CD売り場の担当者がいない時には、他の売り場の人が接客応対することもあるので気を付けます。分かりにくい読み方のアーティストは、ふりがなをつけて探しやすくします。告知POPも同じように対応していますね。
仲西:アーティスト名が、当て字というか、表記と読み方が違うこともあるのに、調べないで読んでしまう店員も中にはいるので。そういうことも含めて「音楽のプロ」という意識でCDショップ大賞の投票にも挑んで欲しいんですよね。一般のお客様と同じレベルで選んでてはダメじゃない?って、正直。
おわりに
今回は、店舗業務から本部での企画など多岐にわたり経験し、販売実績も上げ続けている2人の女性に話を伺いました。2人からは、販売するものの形態は何であれ、お客様の時間を楽しくすることができる、「音楽」を売りたい。そして、そのお手伝いをしたいという思いが伝わりました。
オンラインでも物事が済み、未曽有の出来事に見舞われている時ではありますが、店舗も安全に考慮しつつ、「音楽のプロ」として接客と販売を続けています。今年の3月には、第13回CDショップ大賞2021が発表となります。日々、店舗で音楽に接しているショップ店員たちが選ぶ作品の数々にも、ぜひご注目ください。
*1フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』2020年8月8日放送。「真夏の音楽祭りSP」では、レコード会社、CD販売会社、ラジオ局など音楽業界に携わるプロ99人が集結。
【対談者経歴】
仲西正代株式会社山野楽器 EC営業課 係長
1994年 入社
新店舗立ち上げ、リニューアル、マーチャンダイザー、店長を経て今に至る。インディーズからゆず、SEKAI NO OWARI、Official髭男dismなどを大きく打ち出して展開。CDショップ大賞実行委員長を歴任し、数々の取材対応も経験。フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』2020年8月8日放送にて、音楽業界に携わるプロ99人として出演。
秋澤加代
株式会社平安堂 物販事業部
1988年 株式会社STACT入社 (*星光堂出身者によるショップ指導と販促事業を行う企業)1992年 株式会社平安堂入社し、一度退職後、1999年復職。
STACT時代では、店舗販促物作成、販売を担当。平安堂にて、レンタル・セル担当の主任、 レンタル商業組合プロモーション委員会に立ち上げ時より参加。現在は、物販事業部 マスター・チーフ・バイヤーを担当し、全店舗の企画やセールスプロモーションなどを行う。
聞き手:髙安紗やか(CDショップ大賞事務局長/ミュージックソムリエ協会理事長)
構成・編集:石井由紀子(ミュージックソムリエ)
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