歌声フェチ♡インタビュー 第1回 ヒグチアイ

 こんにちは。
 ミュージックソムリエ、シンガーでボイストレーナーの奏子(かなこ)です。「ああ、いいなあ」「好きだなあ」っていう、歌声ってありますよね。そういう声に出会ったとき、この声、一体どうやって出してるの?どうしたらこんな風に歌えるの?って考えたことはありませんか?
 歌声フェチ♡インタビューでは、歌声に魅力のあるシンガーさんに、日々歌声とどう向き合っているかをご自身に語っていただいて、その魅力を紐解いていきます。第1回目のゲストは、6月22日にニューアルバム『日々凛々』をリリースしたヒグチアイさん。ふくよかでありながら鋭さのある低音と、のびやかで美しい高音が聞き応えたっぷりの歌声。歌声にまつわるアレコレ、聞いてきました。

-----ニューアルバム『日々凛々』ですが、前作までと比較してボーカルに対して意識したこと、または日々意識している事があればお聞かせください。

今回レコーディングの時、時期的に結構風邪をひきやすくて声の調子が悪いというか、本番まで声を出さないっていうのが多かったので、声というよりは“とにかく調子をどうしたらいいんだろう”っていうところはすごく考えていました。寝るときにマスクしたりとかめちゃくちゃ加湿したりとか、そういうのはしましたね。
実際、今回21歳位の時に弾き語ってた曲を、ちゃんとレコーディングしてCDに入れることになったので、その時の音源を聴いたら、全然声の出し方が違うというか、めちゃくちゃ地声だったりとか、高いところまで出てるんだけど、ずっと単調でねっとりしてる感じだったから、もっと言葉がはっきりして、はっきりしつつも伸びやかに出せたらいいな、っていうのはありました。それは昔よりは良くなったかなと。
昔くらい地声が出るようになったらいいけど、そうじゃなくても、表現力が上がってるかなという感じがしました。


---なるほど。その、表現をこういう風にしたいというイメージは、どんなところから来ていますか。例えば誰かの影響を受けたとかはありますか。

特にこの人っていうのはないんですけど、やっぱり言葉が聞こえないっていうのがすごく気になって。聞こえやすい方だとは思うけれど、多分それは滑舌の問題なのか、言葉の置き方なのかわからないんですけど、だからこそ、もうちょっとそこを伸ばしたくて。
歌ものは、ディーバ的な方も結構好きだから・・・、最近ビヨンセとか聴いてるんですけど、私はああいう風には歌えないから、ああいう歌声で魅了する、ということではなくて、自分にもともとあった良いところを伸ばそう、と思って言葉をはっきりしようっていうのはありました。


---やっぱり歌詞がちゃんと聞こえてくるというか、言葉が聞いたままに入ってくるっていうのが大事と言うことですか。

そうですね。そうなったらいいなと。何を言ってるんだろうって考えることに頭を使っちゃうと、そこで頭の中全部が埋められるというか、それがわかった上で情景を出すのにすごくタイムラグがあるような気がして、そのうちに曲がどんどん進んでいっちゃうから、入った瞬間に言葉に変換された方が情景が浮かびやすいかなと思って、それは考えるようにはしていますね。

----そうすると、例えばレコーディングして、聴き直して、「ああ、ここもうちょっとこういう風にしよう」って考えたりしますか。

考えます。息吸う場所とか結構気にしない人って、言葉の間に息吸ったりするじゃないですか。私は曲を作るときにそもそもあんまりなくて、この1つの言葉を言った後に絶対ブレスを入れたいとか、そういうのは多分合唱をやっていたときに、考えていたような気がして。


----あ、合唱部だったんですね。

はい。ここまでの言葉、とか、ここまでの文の後にブレスを入れないと文章が成り立たないなとかっていうのはすごく考えていたので、その感覚はずっと残っていて。レコーディングの時にここが息継ぎ難しい、ってなったらまた違うところ、も一つ手前の文のところで息継ぎしたりとか。
もうちょっと言葉を分かりやすくするには、どんな風に歌い回したらいいかって、そこで変えたりしますね。


----そう言われてみると今回のアルバムは全曲聴いてすぐに言葉わかりますもんね。

そうですか。よかった。ふふふ。


----レコーディングの時に声の調子が悪かったということですけれど、それでもレコーディングしなきゃならないっていう時は、どうコンディションしていましたか。

まぁでも1つは絶対に病院に行きますよね。
(一同爆笑)
強い注射とか打ってもらいましたね(笑)。
それはもう、本当に、喉を悪くしたら癖になるな、って思うので。それでそのまま歌うっていうのは1番やっちゃいけないような気がして。何回も壊してるから。
「大丈夫だろう」と思って病院に行かないでまた壊しちゃうっていうパターンがあるんで、その1回を歌っても、それをちゃんと治す方向に向かっておきたいという感じではあって。
昔は、1本のライブに対してもちょっと甘かったような気がしていて、声が出なくても、エモーショナルな感じで歌えば、何とか乗り越えていけるって思ってたけど、今は8割しか表現力がなくても、声が出てないとダメなお客さんがたくさんいるような気がするんですよ。

だから、とにかくわーって出して「あの人すごい頑張ってるな」っていうよりも、ちゃんと上の方(高音)とか、丁寧に出してるなっていう風になるように歌おうとはしているんです。
それは地声に行くところを裏声にするようにしたり、そんなに力を出さなくても歌える低い所の時は、声をすごく薄く出そうとしたり。

ずっとわーって出してるんじゃなくて、ちゃんと抜くところを覚えてるというか、結構そこは気をつけていますね。


----丁寧だなっていうのは、こないだのライブで感じましたね。

そう。丁寧にやらないと、喉が壊れちゃう。笑
喉を壊して、そこから次のライブまで空いていたとしても、ラジオとか取材はあるし、しゃべらなきゃいけないから、その1回だけじゃ、だめじゃないですか。

今後もずっと歌っていくためには、その1回をどこまで抜けるかが大事だなって。


----効率的に、というか。

うんうんうん、そう歌えるかっていうのはすごく考えるようになりましたね。


-----ライブで歌っている時とレコーディングで歌っている時は、テンション感とか、喉の使い方とか、感覚的には同じなんですか?

全然違いますね。レコーディングの方が全然楽しくない。(一同爆笑)
楽しくないっていうか、やっぱり目の前に人がいないから、何も反応がないし。だからできる自由度はあると思うけど。
だから録ってくれている人に「ちょっとテンション上げてくれないと無理です、私これ歌えません」って言って。笑
ちゃんと良かったら「いい」って言ってくれないと。悪い時は「悪い」って言われたら絶対テンション下がるから、「上手に私を動かしてください」っていつも言っているんですけど。笑

----それは素晴らしい。

そう。それで「良かったよ、もう一回」って。笑

それくらい、レコーディングの時は録ってくれる人・そこにいる人が全てなので。
作品を聴いてくれるであろう、その向こうにいる人を想像しろって言われても絶対無理だから、その辺はちょっとまぁいろいろ調子を上げるようなこと言ってもらったりして。
ライブだと、外の音が回り込んで聴こえてるので、すごく臨場感を感じながら歌えて。自分の気持ちも高揚するので、レコーディングはその時の感覚では歌わないようにはしてますね。


----例えば声の出し方とか音量もライブとレコーディングでは違ったりしますか。

 

全然違います。レコーディングの時は、全くこれは実音を出したくない、息の方を強めに出したいっていう曲もあって、今回のアルバムの最後に収録されてる「癖」という曲は、息を多めで、囁くような、耳元で歌っているような感じで歌いたいからマイクの音量だけ上げてもらって、多分歌ってる時は「ぁぁぁぁぁ(実演)」くらいだったと思う。

-----この曲はまだライブでやってない?

やってないです。

----じゃあライブでやるときは・・・

多分全然違うんじゃないかなぁ。
レコーディングの音源はすごくきれいにしてもらってるから・・・つばの音とかリップ音みたいなものを全部とってもらってるので。もしライブでそれを再現しようとすると、結構息の「フゥ」っていう音が大きく出ちゃうと思うんですよ。だから、(ライブでは)多分できないでしょうけど、でもライブならではの良いところが絶対あるので。


----じゃあそういう歌い方をCDで聴けるっていうのは聴きどころの1つですよね。ライブとCDでの違う楽しみがある、っていう。

そうですね。全く違うというか、CDの音源を完全に再現できることはないので。鍵盤は同じものが弾けたとしても、ギターやシンセを何本も重ねたりとかもできないし、ライブではまた全然違うものを出すつもりで、作っています。

“声帯の右側と左側を感じるんです”


----日頃、自分の声はどんなふうにメンテナンスしてるんでしょうか。

この音が出なかったら声の調子が悪いなというラインがあるので、毎朝、起きてからその音を出してみて、ああ大丈夫だなと思ったら、いつも通りの発声をします。調子が良ければ普通に発声せずに歌い始める時もあるし、それが出ないときは、お昼位になって人と話してから出す時もあるし、それでもダメだったら、もうその日は声出さないとかしゃべらないとか家の中でもずっとマスクしてるとか。


----かなりストイックな感じに聞こえますね。

最近はちょっとセンシティヴなところがありますね。もうほんとすぐ喉壊しちゃってて。だからそうならないために。
唾液の分泌量とかも喉の荒れに関わってくると思うんですけど、もともと私は「粘膜が強くない」って言われていて。だから人以上に過敏にならなきゃいけないらしいから、ちょっと水を多めに飲むようにしたり、すぐのど飴を舐めるようにしたりとか、気をつけるようにはしています。


-----さっきの特定の音を出してみて喉の調子を見るっていうのは、例えばそれは音の高さとか?母音とか?

音の高さですね。一応母音は全部やるんですけど。「い」とか「え」とかは出やすいので、「お」とか「あ」とかで出ないときに考えますね。ちゃんと出ていても、あ、なんかこの出し方はちょっと喉に負担かかってる、とかそういうのは自分の中で感じられるので。
で、右側と左側があるじゃないですか。


-----え、声帯の?

そう。

-----その右と左を感じる?

そう、感じるんですよ。
私、右側がいつも調子が悪くなりやすいので。声を出しているときに右側に引っかかる感じというか・・・右側よりも左側の方が息が多く通るなという時は、どっちかが調子悪いかもしれない、って。そうなったら病院に行きます。

----繊細ですね。
そう、両方ともあんま出ないなぁっていうんだったら、単純に起きてなかったり、動かしてなかったりなんですけど、どっちかだったら病院に行ったほうがいいってルールが自分の中にあります。

----面白いですねぇ。。。あ、面白いって言っちゃった。笑

でも、人によっては全然偏ってないこともあると思うので・・・そういうのって歯並びもあるらしいんですよ。私、下の歯が左の方が手前にあるので、そこに息が引っ掛かったりすると、またその出し方が違うらしいので。

----本当にちょっとのことで、変わりますよね。

ちなみに、声の調子を見る音の高さっていうのは?

レ。


----高いレ?

(ハミングで、D5の音を出して)

この音ですね。


----この音で調子を見てる。

はい。これが出なかったら、調子悪い。

----これは世の歌う人たちには、いい情報ですね。

どうなんですかね。みんなどうやってやってるんだろう、気になりますよね。調子が悪いのってなんとなく歌ってわかるのか・・・。

----でも、やっぱり基準があるほうが・・・

そうですよね。基準は絶対あったほうがいいような気がするんですけど。


----今までやってきた中で、この「レ」っていうところに落ち着いたんですね。

そうなんです。調子が悪いと裏声の方がより出なくなっちゃうような気がするので、わかりやすい。

ほんとにびっくりしまもんね。「あれ出ない」って。どうやって歌ったらいいかわかんない。けど、自分の曲は両方(地声と裏声)すごい使うので。大変ですね、声が出なくなると。
裏声だけ出ていれば何とか・・・地声は低いところで、もう真ん中から裏声っぽくする、というのだったらなんとなく出来るんですけど、調子悪くなると、裏声が出なくなって大事なところが聴こえない、みたいな、笑。
大事なとこが全部抜けてる感じになっちゃうんで、そこだけは気をつけるようにしなきゃと思っています。

何かザラっとしてる、パキっとしてる感じの方が憧れが強いです


----自分の声とか今のシンギングスタイルとかに直結してるしてないは置いておいてこの歌声は私フェチですって言うアーティストとかいたら教えて欲しいなと。


BUMP OF CHIKENの藤くんの声がすごく好きなんです。米津玄師さんとか、ONE OK ROCKのTAKAさんとMrs. GREEN APPLEのボーカルの大森さんと。あの、なんて言うんだろな、ざらっとしてる感じで、ちょっと鋼っぽいというか、男の人でそういう声の人は結構好き。
女の人だったら、Katy Perryが好きですね。Katy Perryに、まぁ、なりたいですけど。
やっぱり、ディーバ系のものを聴いていても、BeyoncéよりもKaty Perryのほうが、声が好きなんだなと思って。Mariah Careyも好きですし、Christina Aguileraとかも好きだけど、でもやっぱり落ち着くのはKaty Perryだったから、その声が好きなんだと思います。やっぱりそれも鋼っぽいというか。
なんかあのざくっとしてる感じというか。


----ちょっと金属音的な周波数が入ってる感じ。
入ってる。でも入りすぎてない。


----キンキンはしてない。
そうそう、入りすぎてるのもかっこいいけど、自分の中では何か“ちょっと入ってる”くらいの人の方が好きみたいですね。
日本の人で女の人だと・・・Superflyとかも聴くのはすごい好きだけど・・・でもまたちょっと違いますよね。


----私が聴いている「ヒグチアイの声」は鋼というよりは、ふくよかさがあるからどちらかと言うとSuperflyの方がKaty Perryよりは近い感じは・・・鋼って言うと椎名林檎さんみたいなイメージが。

そうですね、私も椎名林檎さんが大好きなんですけど、そもそも聴いてる分には、あの歌をふくよかに歌うディーバみたいな人がすごい好きなんですよ。だから、ああいう声の方が、ただただ憧れがあるというか、羨ましいなっていうのはあるんです。自分の声が歌い方的にはそっちじゃないから、もうちょっと感覚的には違うんですけど。

----女性の声は割と外国の方に惹かれるんだなと。

そうですね。日本の人…優しい感じの声は素敵だなと思う人がいっぱいいるんですけど。コトリンゴさんとかもすごい好きですし、だけどもうちょっと何かザラっとパキっとしてる感じの方が憧れが強いですね。


ヒグチアイ

http://higuchiai.com/

@HiguchiAi


2ND full album『日々凛々』発売中

[収録曲]

01.わたしはわたしのためのわたしでありたい

02.永遠

03.コインロッカーにて

04.玉ねぎ

05.わたしのしあわせ

06.ぽたり

07.不幸ちゃん

08.最初のグー

09/癖

★[初回限定盤]アルバムCD+DVD/TECG-30121/ ¥2,778+tax

*DVDには新録「ぽたり」&ライブ定番曲「わたくしごと」のスタジオ弾き語りライブ映像と、「わたしはわたしのためのわたしでありたい」MusicVideoを収録

★[通常盤]アルバムCDのみ/TECG-26122/¥2,407+tax

*通常盤ボーナストラック:「きっと大丈夫」(長野都市ガス(株)新企業CMタイアップソング)収録

★iTunes/Apple Music Special Package

https://itunes.apple.com/jp/album/1390414655

*ボーナストラック「花霞」収録


NPO法人ミュージックソムリエ協会

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