大貫憲章氏が語る「ミュージック・ソムリエへの期待 」

 40年以上、音楽評論家として洋楽の発展と衰退をみつめてきた大貫さん。洋楽の現状を危惧し、音楽の楽しみと文化を次の世代にどう伝えていくか、一刻の猶予もなく対策を講じるべき、と語ります。

音楽評論家・DJ 大貫憲章


あまりに嘆かわしい、洋楽の現状

 今の洋楽の現状は嘆かわしいとしか言いようがないですね。まず、聴く人が減っている。それはリスナーを導く「入り口」がなくなっているからです。かつては洋楽を専門に紹介するようなラジオメディアがあった。今はそんな番組はほとんどないし、ラジオのリスナー自体も減っている。洋楽に触れるチャンスがなければファンが増えるはずがない。

音楽の情報が探せない“音楽難民”
 昔は番組は少なかった。でも少ないなりにメディアとしての有用性は高かったんです。僕が子どもの頃は、小島正雄さんの「9500万人のポピュラーリクエスト(1963年放送開始)とか、湯川れい子さんの「全米トップ40(1972年放送開始)」などの番組があった。そこでは丁寧な解説付きで、海外で流行っている洋楽をタイムリーで聴けたんです。今はどこで洋楽の情報を探せばいいのかわからない。それはリスナーにとって大きな問題。僕はそういう人々を「音楽難民」と呼んでいます。難民状態だから藁にもすがるしかない。自分から探す方法がないから流行っているものだけにすがる。でも今の流行は映画やドラマとのタイアップばかりでしょう。そうなると10年経ったら誰もアーティストなど憶えていませんよ。制作側は付加価値がないと売れないと思っている。でも本当にいい音楽に付加価値なんて必要ないんです。制作側も頑張っているのだろうけど、僕としては違う方向に行っていると思いますよ。

ダウンロードの一曲買い=ジャケットを知らない若者たち

 今や音楽はダウンロードが主流になって、CDというパッケージ商品がまったく売れなくなっている。ジャケットなんて知らない若者も増えていると思う。もっと言えばアーティストが誰なのかも、その顔すら知らないんじゃないかな。曲単位でダウンロードするのはそういうことなんです。「ジャケ買い」なんていう言葉があるように、昔はジャケットあってのアルバムだった。ジャケットとアーティストと音楽、それがアルバムというひとつの芸術を創っていたんです。時代の流れだから仕方がないのかもしれないけれど、音楽の買い方が変わってしまい、そうすると必然的に音楽を創る側の意識も変わってくる。音楽の質が落ちるのは当然なんです。洋楽評論の草分けだった福田一郎さんが、15年ほども前に、このままでは日本の音楽はダメになると危惧していた、それが現実になった。

一番の被害者はリスナー
 音楽雑誌だって業界の中で癒着しているから、ちゃんとした評論が書けなくなっている。レコード会社が仕込んで、音楽ライターが提灯記事を書くだけでしょう。こういう状態で一番の被害者は音楽を本当に聴きたいと思っているリスナーなんですよ。
 僕ははからずも洋楽の発展と衰退の両方を見てきた。いまの衰退の現場を見ていて、どうしたらいいのかと考えます。まずはレコード会社の社員に言いたい。「本当に音楽が好きなら、長いものに巻かれていないで自分たちで企画を立てようよ」と。今はそういうことをやる人材がいない。人間力が脆弱になっていると感じますね。
 あと、僕ができるのは音楽難民であるリスナーを、どこかに案内してあげることです。とはいえ僕や他の評論家がどれほどやったところで、個人ができることは限られている。現在の音楽の窮状に歯止めをかけるには、業界内の癒着のないところで、レコード会社と制作者とリスナーを結び、音楽の援護射撃をする非営利の組織が必要です。


荒れ地に種を蒔く
 僕はジャンルや時代や人気に関係なく、音楽の楽しみをより多くの人に知ってほしいと思っている。楽しみ方にもいろいろあるだろうけれど、やはり曲だけよりも知識があることによって聴き方に深みが出てくる。歴史を遡ると、並列にも縦軸にも横軸にも広がるのが音楽の楽しみなんです。時代によって流行っていた曲、その思想や背景を知ることで、人生にちょっとしたマジックが起きる。そのマジックで自分の生き方が左右されるような瞬間もあれば、目の前が開けたり、すごく気分が楽しくなったりする。それが音楽の力だと思うから、幅広く知ってほしい。それが僕の理念なんです。知るためには“とっかかり”がないとね。僕はその“とっかかり”を作り、音楽の楽しみへの扉を開けてあげたい。
 音楽の現状は荒れ地なんですよ 荒れ地にどんな種を蒔いたらいいのか、どういうふうに開墾したら、かつてのような音楽ファンが生まれるのか、そこから考えなくては。実際、どこから手を付けたらいいのかわからない。でも音楽復興をしないと将来がないですから。


非営利団体だからこそできる“道案内”を期待
 種を蒔けば何かが変わって、花も咲く。それはリスナーが育つということです。育った人たちが、タンポポの綿毛のようにあっちこっちに広がって種を落としてくれればいい。音楽専門家だって、評論家だって、最初は皆ただの音楽ファンだった。僕だって、そのなれの果てなんですからね。
 ミュージックソムリエ協会に求めたいのは、“音楽の道案内”です。そのために非営利の団体が立ち上げられたということは非常に重要です。業界の癒着を断ち切るのは容易ではない。運営も大変でしょう。でもそれらをクリアしていくことで、音楽難民を救い、音楽ファンを増やし、開拓し、音楽シーン全体を聴き手の目線から盛り上げていくことができる。今や一刻の猶予もない。音楽文化を衰退させないため、音楽の未来を作っていくために、ミュージックソムリエ協会に僕は期待しています。

取材・構成:山崎広子

大貫憲章(音楽評論家、DJ)
1951年2月22日生まれ。1970年から音楽評論家として執筆活動スタート。NHKラジオ「若いこだま」のDJを皮切りにラジオ番組のDJ、TVK「ミュートマ」のVJなどを担当。1980年からクラブDJイベント「LONDON NITE」を新宿ツバキハウスにてスタート。LONDON NITEは昨年で30周年を迎え、現在も日本の各地にて開催中。年末12月には恒例の川崎クラブ・チッタでバンドを招き盛大にX'masイベントを開催。ラジオは現在渋谷FMにて毎週金曜日午後7時から1時間のロック専門番組「ROCK YO TOWN!」を放送中。音楽評論家として40年以上のキャリアをもち、還暦を過ぎても音楽、特に洋楽の普及、振興活動をライフワークとして活躍中。2011年9月より木曜深夜1:32から1時間、インターFMにて「KENROCKS NITEVer.2」スタート!

NPO法人ミュージックソムリエ協会

NPO法人ミュージックソムリエ協会は音楽に関与する人材を発掘し、育成し、音楽とその周辺のソフト産業の活性化・多様化をもたらします。

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