朝倉さや 民謡日本一の山形娘の唄への愛、想いを聞く
一度聴くと、心に残る晴れやかな歌声とこぶしの気持ち良さ。くったくのない笑顔を向けるミュージックビデオでの姿。民謡に現代音楽のエッセンスを入れたFuture Traxで唯一無二の世界を作っているのが、朝倉さやさん。今年4月1日に1stメジャーアルバム『古今唄集〜Future Trax Best〜』をリリースし、ますます活躍の場を広げる彼女に話を伺った。
インタビューは5月。ご多分に漏れず私たちもオンラインでのインタビューを行うことになった。初対面の方とのオンラインインタビューということで、私は少し緊張していたのが、画面に登場した朝倉さやさんの笑顔を見て、そんな不安も吹き飛んだ。画面越しでも彼女の笑顔や明るい雰囲気は十分に伝わってきた。
まずは、メジャーデビューに際して、ビジュアル面で大きく変化した、髪の色について話を聞いた。
― 髪が青くなりましたね。どうですか?朝倉さや(以下、朝倉):1回髪はブリーチすると黄色くなるじゃないですか。そこに青を入れているので、いまちょうど緑になっているんです。見えますか?(画面越しに髪の毛をしっかり見せてくれてる、青みがかっているが、少し緑にも見える綺麗な髪色を見せてくれる。)
―青は、色が抜けやすいですよね。私も髪の一部を青にしたことがあって。
朝倉:そうなんですね。なので、いま美容室にもなかなか行けませんので、自宅で紫シャンプー(カラーリングした髪色をキレイに保つためのシャンプー)と、カラートリートメントを使って、爪とかも青くなっちゃうくらいですがやっています。
―青にして、心境の変化はありましたか?
朝倉:今回、4月1日にリリースしたアルバム『古今唄集〜Future Trax Best〜』が、メジャー1stアルバムになったのですが、このアルバムを自分自身も名刺にしたいという思いがありまして、髪の毛の色を変えてみるっていうことにも挑戦したので。CDジャケットもお気に入りのヤツが出来て、日々もまた髪の毛の色も変化していくのも、“いち変身”だけじゃなくて、日々変身しているようで楽しいです。
優しいことを表現したかったのにピッタリだった、1曲目のタイトル
―アルバム1曲目とラストは、オリジナル楽曲かと思います。1曲目のタイトル、「AGRIMONY~旅さあべ~」、“旅さあべ”は、“旅に行こう”という山形弁ですか?
朝倉:はい、“旅さあべ” は、“旅に行こう” “旅へ行こう”という意味です。“人生イコール旅”であって、年を重ねることとか時が進んでいくことに対して、普段はそこに重きを置きながら生きているわけじゃないけども、変化していくのが何となく少し怖い気持ちになってしまうことがあるような気がして。だけれども、変化していくことや変わっていくことっていうのは、全然怖くないことなんだよっていうのを歌で伝えられたり、表現できたらいいなと思って作った曲なんです。AGRIMONY(アグリモニー)は、お花の名前なんですけれども、この曲を作っている時に、たまたまバッチフラワーっていう、フラワーのエッセンスで人間を癒してくれるというものを知りまして、この花の名前は、1曲目のメロディとアレンジ、私の想いにもピッタリだなと思って。曲名が正式に決まってない段階でも、この花の名前と “人生の旅さあべ” を入れていたんですが、優しいことを表現したかったのにピッタリだったので、AGRIMONY(アグリモニー)も最後まで残っていたということです。
―AGRIMONY(アグリモニー)ってお花の名前がなぜ入っているのかな?と思っていたら、そういうことなんですね。バッチフラワーで、AGRIMONY(アグリモニー)は “変化しても大丈夫だよ”というようなことを表してくれるのですか?
朝倉:めちゃめちゃバッチフラワーに詳しいわけではないんですけど、AGRIMONY(アグリモニー)自身は、心の苦しみを感じたりすると、自分の本当の感情みたいな苦しい心の内を隠してしまう人に役立つもので、優しいお花のエキスなんです。
―なるほど。聴いていて、優しい感じで曲が耳に入ってくるなと思っていたのですが、まさにその想いにぴったり来るものですね。
朝倉:なんか、それが表現できていたら良いなと思っています、はい。
民謡を飛び越えたもう一つの世界、絶対に歌いたいと思った
― アルバムのメインであるFuture Traxですが、これは歌手デビューした時から行っているのでしょうか?
朝倉:歌手デビューしたのは、2013年なんですけれど、その時は実は、Future Traxは生まれていなくて2015年くらいに生まれたものなんです。ただ、私は生まれた時くらいから民謡がとっても好きで、歌い続けていまして。民謡が好きになったから今の自分があるような感じがして原点みたいに思っているんです。だから、歌手デビューしてからも、ワンマンライブとかで、三味線引き語りやお客さんに手拍子してもらいながら民謡を1曲ないし2曲くらい歌っていたんですよ。 デビューしてから2年経って、プロデューサーのsolayaさんが、私が歌った民謡に凄い世界のアレンジで、もう民謡を飛び越えたもう一つの世界が出来たような音源を送って来て下さったんですよ。「最上川舟唄」が「River Boat Song Future Trax」になったのを聴いた時は、小さい時から歌ったり、聴いたりしているものが、もう本当に全然違う可能性を秘めた音楽になったような気がして、絶対コレは歌いたいなって思い、歌わしてもらったというのが最初のキッカケであります。
(※「River Boat Song with respect for 最上川舟唄」は、2015年の第57回レコード大賞企画賞を受賞。)
River Boat Song with respect for 最上川舟唄
― Future Traxでは、民謡とは違う楽器などが登場すると思うのですが、そういった違いにより歌うのが難しいことはありますか?
朝倉:楽器が違うから難しいと言うよりも、テンポというかリズムというか、民謡で歌っているテンポで歌っていると、ポップスにはまらなかったりすることがありまして。そこを上手く民謡の良さを活かしながら、ポップスというか新しい世界として歌っていくというのが、割と“まだある”という感じですね(笑) 新曲をFuture Traxで歌うときには、いまだに、この曲はまたちょっと違う難しさがあるな、みたいなことがあったりします。それが難しいところの1つだけど、それを乗り越えるとまた新しい世界ができるんだべな、と思いながらやっています。
―朝倉さやさんの歌を聴いていると、自分が行ったことがない場所でも風景を想像したり、時にGoogle Mapで場所を見たりすることがあります。実際に歌われる時は、ふるさとの景色やイメージを頭に浮かべているのですか?
朝倉:そうですね、ふるさとの歌とかだと、やっぱり自分が知っている景色だったりとか、そこでの思い出があったりします。あとは民謡を歌った時に、一緒におばあちゃんと歌ったっけな、とか思い出があったりするので、景色や想いが民謡のものとしてではなく、自分のものとして広がっているという感覚に近いと思います。地元ではない場所、行ったことがない場所だと、民謡って歌詞の中にその地域の景色とか名所とか方言とかが入ったりしているんですよ。まさにGoogle Mapではないけれど(笑)調べたりとか、思いを馳せながら歌うことが多いです。鹿児島の「鹿児島おはら節」って曲がありまして、〽花は霧島 煙草は国分 (実際にひと節を披露)というのがありまして、去年初めてツアーで鹿児島に行ったんですよ。人生で初めてだったので、“逆聖地巡礼”みたいな感じで、これが桜島かぁーとか、霧島ってこんなところなのかぁとか、最初に歌を知っていて、そのイメージと照らし合わすのがすごい嬉しかったです。
―そうやってイメージと照らし合わせることで、新しい発見があるのですね。
朝倉:そうですね、やっぱり現地に行ってみると、パワーが溢れているし地元の人とたちの雰囲気とかでまた変わってきたりしたので、鹿児島に行けたことは自分にとって良い時間だったなと思っています。
―方言ってその言葉を使う人たちでないと通じない細かなニュアンスってあると思うのですが、実際にその土地の方と話をしてみることで歌詞の理解が深まるなんてこともありますか?
朝倉:そうですね。今回のアルバムの中には入っていないのですが、静岡県の「ちゃっきり節」という、比較的新しい民謡みたいなんですけど、〽雨ずらよ (ひと節を披露)とっていうのが、“~ずらよ”というのが方言だという意識もなく歌っていたので、ここは方言なのかもしれないよ、と静岡の人に言われて、はっとしたことがありました。“~ずらよ”って言うこともあるんだよ、と教えてもらって、なるほどーと思うことがありました。
合いの手は、元気よく、堂々と!(笑)
―民謡の “ヨッ”などと言う、いわゆる合いの手が格好いいなと思うのですが、上手に合いの手を入れるコツなどありますか?
朝倉:本当に、元気よく、堂々と!(笑)堂々と私のライブでは歌って貰えたら嬉しいです。時々、「花笠音頭」を弾き語りで歌わせて頂くことがあるのですが、「花笠音頭」には〽チョーチョイ… (ひと節を披露)という歌詞があって、それをレクチャーしてから歌うことがあります。
―それを教えてもらえると、みんな楽しく盛り上がりますか?
朝倉:そうですね。もう知っているよっていう人もいるし、私も歌うので、最初って恥ずかしいなというのもあるかもしれませんが、2回目、3回目とどんどん声を大きくして、張り切って歌ってもらいたいなと思います。本当の世界というか、“ザ・民謡”という世界では、また話がちょっと違うのかもしれないけれど、自分の形で伝えていけたらいいな、といまは振り切ったような感じでやらせて頂いているので、私のライブでは、どんなに下手でも恥ずかしくても、殻を破ってぜひ元気にやってもらいたいです。
―みんなで歌うと楽しいな、というのは音楽のジャンルに関係なくありそうですね。いわゆる“コール・アンド・レスポンス”のような感じだと、ライブも楽しいし、さやさんの魅力をよりお客さんが感じ取れそうですね。
朝倉:ありがとさまです。ぜひライブも遊びに来てください。
朝倉:これはお囃子という感じだと思いますね。この曲は、実は小さいころから歌っていたわけではなく、最近出会ったものなんです。香川県女木島(めぎじま)というところでは、嫁ぎ先に向かう嫁入りの行列で、たんすを担いで、「たんす唄」を歌いながら、みんなで “どしどし” と言いながら夜に向かったという風習があったそうです。その風習は、いまは無くなってしまい、唄も無くなってしまったのですが、それを復活させようというプロジェクトが香川県の放送局で立ち上がって、有難いオファーを頂いて歌わせて頂きました。改めて、民謡って土地の文化と共にあるなと、それをキッカケに思ったんです。この “どしどし”も、私がつけたわけではないので、どんな想いが込められてるのか、真相は分かりません。みんなで進む足音なのか、たんすをみんなで持っている感じなのか、それは分からないんですけど、なんか嫁入りの楽しい唄、嬉しい唄、祝い唄なのかなと思って、元気に“どしどし”と歌っています。香川の子どもさんたちが、歌うことによって、より唄のパワーが大きくなったような感じがしました。
―最初に聴いたときには、とても明るい印象を持ちましたが、夜に歌われている曲だったんですね。
朝倉:そうなんですって。プロデューサーのsolayaさんが、めちゃめちゃ楽しくアレンジして下さったんですけど、もともとの残っていた音源というのは、おじいちゃんとおばあちゃんの声で収録されていて、イメージが違ったんです。
―今回のアレンジだと、お子さんの声も入っていて、未来に向かっているような感じがして素敵でした。
朝倉:ありがとさまです。この唄で昔の女木島の皆さんと、子どもたちが繋がって、更にこっちまで繋がれている気がして、本当に嬉しい出会いの1曲でありました。
―本当ですね。「たんす唄」はPVの参加者募集もされていましたね。こちらは、いま集まった映像を編集しているところですか?
朝倉:そうです、そうです。近日公開予定という感じですね。
(※インタビュー時は公開予定だったが、現在公開中。)
たんす唄 feat. 地球
みんなと一緒にワクワクしながら歌手人生を
―それでは最後に、今後の目標についても教えてください。
朝倉:いまは、みんなに会うことも出来ないのですけど、コンサートが出来るようなったら、みんなでこの想いを爆発させるように、ブチ上がりたいなと思っていますし、みんなと一緒にワクワクしながら歌手人生を歩んで行けたらいいなと思っています。そして、ステージでしっかり表現したいことを表現して、誰かに寄り添えるような曲を作って歌っていきたいなと思います。
朝倉さや プロフィール
1992年6月29日生まれ、山形県出身。
小中学校時代に民謡日本一に2度輝き、18歳で上京。
2013年4月5日、自身の作詞・作曲による「東京」でデビュー。2015年には日本レコード大賞企画賞、CDショップ大賞東北ブロック賞を受賞。2018年は全国8箇所をまわる全国ツアーを、2019年は全国11箇所、北海道から鹿児島まで大規模なツアーを敢行。2020年4月1日ユニバーサルミュージックよりメジャーデビュー。
いわゆる「イマドキの女の子」ながら、幼い頃から培ってきた民謡、山形弁を通して日本の歌・文化を伝えていける希有な存在。
『古今唄集~Future Trax Best~』
¥3,300 (税込)
品番:UPCY-7668
Universal Music
朝倉さやオフィシャルホームページ
http://asakurasaya.com/
インタビューを終えて
話を伺うたびに、何だか楽しい気持ちにさせてくれる、本当に周囲を明るくする人だ。話の途中でも民謡のひと節を惜しげもなく披露して下さり、とても美しい歌声に、心癒される時間だった。明るい中にも、民謡への想いや歌手としての思いがシッカリと伝わり、芯のある女性という印象だ。現在は旅行もままならない状況だが、自宅で彼女の歌声を聴き、日本の美しい風景を感じ取る時間を作るのも良いと思う。そしてコンサートが出来るようになれば、みんなで歌って喜びを分かち合える日が来るだろう。その日が待ち遠しい。
インタビュアー:石井由紀子(ミュージックソムリエ)
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