野菜“ソムリエ”という役割に求められる“立ち位置”の重要性とは?

 今回は、一般社団法人 日本野菜ソムリエ協会  理事長 福井栄治さんに、お話を伺いました。

―なぜ、“野菜”に注目されたのですか?
 
 非常にシンプルなんですよ。日本の農業を次の世代に継承するのが(私の)使命だと思ったわけです。今どんどん農業が衰退していますよね。政治家でもない、専門家でもない、私のような商社の人間に何ができるかって考えた時に、人材育成だと思ったわけです。
 しかし、講座を開設した当初は、生産や流通、販売、外食など業界の人からは見向きもされませんでした。講座を開設して、受講に来られたのは一般の食べ手の方々、つまり、生活者の人達だったのです。畑から食卓までを一気通貫でマネージメント出来る人材が育成されれば、次世代に農業を継承できると思ったのです。

——コンシェルジュやアドバイザーなど様々に名称がありますが、なぜ、ソムリエという名称を選ばれたのですか?

 いや当初は、ベジタブル&フルーツマイスターだったのです。野菜ソムリエというのはメディアが付けた名称なんですよ。何度も訂正をお願いしたのだけれども、様々に取り上げられた記事の一つ一つに違うんですよ、ベジタブル&フルーツマイスターなんですよ、といちいち訂正をお願いするのも現実的ではないし。そういう経緯で、一般的には野菜ソムリエの名称が定着してしまった。博報堂生活総研のリサーチでも野菜ソムリエの名称認知度は80%を超えてしまった。
 だったらもうこれはこれで良いかと、野菜ソムリエ協会で。それで、正式に名称を変えてしまったんです。ブランディングの観点から言っても、ベジタブル&フルーツマイスター協会と、野菜ソムリエが並立してしまうのは一般の人達には判りにくいだろうとも思いました。長谷川理恵さんやマスコミに登場される方たちも「ジュニア野菜ソムリエの〜」と紹介されるケースが大半でしたので、資格の名称も「ベジタブル&フルーツマイスター」ではなく、「野菜ソムリエ」で全て統一してしまおうと思ったのです。だから2010年4月に団体名は「一般社団法人 日本野菜ソムリエ協会」に、資格名は「ジュニア野菜ソムリエ」、「野菜ソムリエ」、「シニア野菜ソムリエ」に名称変更しました。
 つまり、メディアはもとより、生活者の方々にどのように認知していただいているか、ということを第一に考えたという経緯です。

——昨今の農業の現実の中で、いわゆる供給する側は扱い易い作物や、流通し易い作物を供給していると思います。しかし、野菜ソムリエ協会としてはそうではなく、もっと品質重視の観点で生産者の意識向上も考慮されているのですか?

 それは前提としてちょっと違います。例えば一般に日本の農家は、政治に翻弄されているとか、TPP問題の足枷になっているとか言われています。しかし、私が商社マンだった時代、アメリカから農家の人を連れて日本の畑を見学してもらったりしたのですが、アメリカの生産者達は一様にビックリしてしまう訳です。日本の農家のクオリティの高さや意識の高さに接して。日本の農業は品質において、実は世界最高峰のレベルなんです。
 しかし、ご存知のように農業の構造とは、農家という生産者がいて、流通や販売といった業者さんがいて、我々食べ手がいるわけです。当然と言えば当然ですが、業者さんにとって良い物と、我々食べ手にとって良い物は違いますよね。業者さんや流通、販売者にとっては作物の形が揃っていて、棚保ち(たなもち)がよいほうが嬉しいでしょう。熟度が高いと棚保ちが悪いですからね。でも、食べ手は熟度が高いほうが良いでしょう。棚で三日保とうが五日保とうが食べ手にとっては関係ないわけです。それよりも収穫された時の熟度が高い方が美味しいし、そちらの方が食べ手にとっては良いわけですよ。つまりここにギャップがあるのです。
 ただし、先ほど述べたとおり、日本の農業は世界最高レベルです。ですので、今の日本の農家は、業者さんの求める良い物にも、食べ手の求める良い物にも、どちらにも対応できるんです。しかしながら、何が良い物なのかというのが農家、業者さんには解りにくいんですよ。このギャップが問題なんです。「食べたらわかるやろ」ではダメなんです。
 だから、“畑から食卓までの架け橋、一貫したマネージ”が必要なんです。畑の情報も食卓に伝える。食べ手のニーズ、たとえばどんなトマトが求められているのか、ということも農家や業者さんにフィードバックする必要があります。野菜ソムリエ協会は、そういう役割を果たそうとしています。

——今お聞きした生産者から食卓まで一環したサイクルのなかで、野菜ソムリエの方々は、具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか?
 
 食の安全性だとか安心だとか叫ばれているけれども、ワン・ウェイではダメなんです。「食べ手が求めること」と、「今誰それさんの畑では、こんな取組みをしていますよ」といった相互コミュニケーションが重要なのです。これがまさに架け橋ですよね。そして、これこそが野菜ソムリエが実践している事なのです。
 さらに、今の農業の最大の問題の一つは、日本の農家さんが誰からも褒められないことです。収穫した物は産地のJAの倉庫に収められて、出荷されたら誰に届けられたのか、誰が食べたのか、もうわからないじゃないですか。だから野菜ソムリエは、「あなたが作った野菜は誰々さんに届けられて、こんな評価でしたよ」、「その家のニンジン嫌いのお子さんが、あなたがこしらえたニンジンを喜んで食べてくれましたよ」って、農家にフィードバックさせてもらうのです。
 食べ手の顔が見えたり喜んで貰えたのがわかれば、作る方もモチベーションが上がるじゃないですか。畑からの情報を食卓に伝えるのと同時に、このような取り組みも重視しています。

——ミュージックソムリエも目指している事は同じです。上質な音楽の提案をしていかなければと思っています

  うーん、そこの定義で間違っちゃいけないのは、ソムリエが売り手側の代理人なのか、買い手側の代理人なのか、立ち位置が大事だということですね。
 例えば、マーケットの野菜売場でよく輸入バナナの試食販売をやってますよね。あの販売員さんは売り手側の代理人なので、バナナの輸入代理店からお金を貰ってあそこにいるんです。だから、例えば、目の前に来たお客さんが、本当は今日は長野県のリンゴが欲しいと思ってもバナナを勧めなければならないのです。売り手側の代理人ですからね。しかし、野菜ソムリエはそうであってはならない。第一にそのお客さんのニーズを訊くべきなのです。例えば、お客さんが、今日は胃腸の調子が良くないとしましょう。それだったら、輸入バナナよりもリンゴを、さらに作り手が見える長野県産のものを薦めるでしょう。それが買い手側の代理人ということです。今、ソムリエたる人に求められているのは、セラーズエージェント(売り手の代理人)からバイヤーズエージェント(買い手の代理人)へと立ち位置を変える事。つまり、第三者性であったり中立性があること。それが、ソムリエとして情報を発信する人の価値を高めるんですよ。
 自動車メーカーの営業マンは、当然、自社製品は高性能だって勧めますよね。でも、買い手側はもうメーカー側が発進する情報はかなり割り引いて聞いてるわけですよ。だから昨今では広告が効かなくなって、価格.comとかに人気が集まってる。ミュージックソムリエもその第三者性、中立性を打ち出していくべきだと思います。

—かつて、あるCDショップのレコメンドカードは店員の手書きで、福井さんが仰るところの買い手側目線でしたね。だから顧客の購買動機につながった。それが本部発信の印刷になってレコードメーカーから販促費を得るようになり、一気に廃れた。中立性を失い、売り手側の情報だと買い手に見切られてしまった。

  そう、みんなね、買い手側がわかってしまった。今までの音楽評論家がどんなに良いって言っても、この人、どうせあっち側の人でしょ、お金貰ってるんでしょって、買い手側は思っちゃうんですよ。買い手側の目線じゃないなって。
 あとね、中立性が重要という意味では、昨年の震災から続いている福島県産農産物の風評被害対策にも当てはまります。
 農家の人達や行政がどんなに大丈夫ですよって言うよりも、中間にいる野菜ソムリエが「この野菜はこういう器具で、このような調査をきちんとおこなった結果、食べても大丈夫です」って発信する事で、信頼性が上がったんです。農家の人や売り手側が発信する情報よりも信頼を寄せていただいた。だから今、自治体は進んで野菜ソムリエを導入していますよね。
 つまり、野菜ソムリエが発進する情報は、第三者性、中立性があることによって信頼性が高まる。それが買い手側が求める情報である、だからこういう役割の(ソムリエ的)資格制度って業界の違いに関わらず、これから肝になると思います。

——ミュージックソムリエ協会に期待したい事、これをしたら良いんじゃないかという事など、ご意見をいただけますか。


 もう、ムチャクチャたくさんありますけどね。
 まずは、ミュージックソムリエを1000人輩出してほしいですね。主婦や20代のOL、大学生とか、サラリーマンとか、それぞれに年代別、性別に分けて、100人ずつ10個のカテゴリーを作る。音楽のジャンルじゃなくね、色々なシーン別ベスト10とか、属性別ベスト10とか、生活シーンに合わせて選曲するとかね。
 一般人であるミュージックソムリエの目線だから面白いし、絶対にニーズはあると思います。それと「20代の女性とカラオケに行って歌ったらウケるベスト10」とか良いのではないですか?(笑)

——なるほど、確かに買い手、つまり受け手目線なアイディアですね。早速モデルケースで実践してみたいと思います。最後に福井さんのお好きな音楽についてお訊きします。まず、10歳の時の想い出の曲を教えてください。

 ピンクレディですね。

——では、初めて自分のお金で購入されたレコードは?

 えーとですね、長嶋茂雄さんの引退記念レコードです。「我が巨人軍は永遠に不滅です」っていうやつです。実は私、タイガースファンなんですけどね。

——では、16歳の時は?

 アリスですね。あの「左利きのあなたの笑顔が」っていう…、なんでしたっけ?

——『終止符』ですね。

 そうそう、それとか『走っておいで恋人よ』。『冬の稲妻』みたいなアップテンポな曲よりは、もう少しスローなものが良いですね。

——なるほど。今までの人生で一番印象に残っている曲は?

 長渕剛の『乾杯』です。結婚式でよく歌う曲ではあるのですが、10年前に野菜ソムリエ協会を創ったときに歌ったんですよ。この曲って新たな出発がテーマじゃないですか。あと、大学時代に北海道へ旅行に行った時に聴いた尾崎豊。尾崎って反体制的じゃないですか。『15の夜』とか『卒業』は印象に残っていますね。

—— 一番お好きな曲は?
 

 『I Love You』です。『北の国から』の横山めぐみさんが好きだったんですよ。というか彼女がやっていた役が好きで。ご存知ですか?

——はい。あ、いや知り合いではないですが。なるほど。

 私の場合、想い出の曲って、その時付き合っていた彼女や好きな人とセットなんですよね。その当時が蘇ってくるんです。匂いとか、街の情景とか。

——とても参考になりました。ともすると音楽のプロは細分化されたコアな音楽を追究したくなるものです。しかし、ソムリエの役割として、バイヤーズエージェントという立場や中立性、そして、ごくごく一般の人達の感覚で行うサービスが必要であり、求められている事なのだということを野菜ソムリエの成り立ちから教えられました。本日は有り難うございました。


福井栄治 
(一般社団法人 日本野菜ソムリエ協会 理事長)

1963年京都府生まれ。大学卒業後、日商岩井(株)(現・双日(株))入社。インドネシア大学留学を経て食品本部開発グループでオーガニック食品を担当。

2000年、有機食品のネット販売を手掛けるオイシックス設立に参画。取締役副社長。
01年、日本ベジタブル&フルーツマイスター協会設立(2010年4月、日本野菜ソムリエ協会に名称変更)、02年、同協会理事長に就任。
著書「野菜ソムリエの美味しい経営学」、「野菜ソムリエをつくったわけ」ほか

NPO法人ミュージックソムリエ協会

NPO法人ミュージックソムリエ協会は音楽に関与する人材を発掘し、育成し、音楽とその周辺のソフト産業の活性化・多様化をもたらします。

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