「第12回CDショップ大賞 2020」レポート

3月12日、北沢タウンホールとFlowers Loftで『第12回CDショップ大賞』の発表、およびライブ収録が開催された。

2009年より設立されたCDショップ大賞は、全国のCDショップ店員が「一番お客様にお勧めしたい作品(アルバム)」を選ぶもの。過去にはandymori、ももいろクローバーZ、マキシマム ザ ホルモン、宇多田ヒカル、米津玄師、星野源などが大賞を受賞。オフィシャルな音楽賞が少ない日本において、メジャーやインディー、ジャンル問わないアワードとして定着しつつある。

10年以上続いているCDショップ大賞だが、昨年よりアワードに少しずつ変化が現れた。大賞と準大賞という枠を撤廃し、「何度でも聴きたい作品=#神アルバム」を選ぶ<赤>と、「新人アーティストによる一番お客様にお勧めしたい作品」を選出する<青>に分け、それぞれ2つ大賞作品を選出するようになった。メジャー・シーンに増えつつあるハイクオリティな作品を評価しながらも、若手アーティストをフックアップする当初の目的を同時に行うための変化だ。

今回は授賞式の会場を音楽の聖地、下北沢に移動。さらには授賞式とアーティストによるスペシャル・ライブを、一般のファンが観覧できることが発表されていた。

しかし3月時点での新型コロナウィルスの感染拡大状況を鑑み、授賞式とスペシャル・ライブが中止に。代替企画として、無観客での受賞発表模様とライブを収録し、3月18日より順次YouTubeで特別番組を放送する形式で開催された。本記事では、受賞発表模様の様子とスペシャル・ライブのレポートをお届けしたい。

まず発表されたのは、地域ブロック賞。全国11ブロックのCDショップ店員が地元にゆかりのあるアーティストの作品を選出する部門だ。各地域の受賞アーティストが発表された後に、北海道ブロック賞を受賞した爽(さわ)と、東北ブロック賞を受賞したRINGOMUSUME(りんご娘)が歌声を披露した。

爽は北海道出身の新人シンガー・ソングライター。オーディションがきっかけでリリースされた『Runaway』が地元のCDショップ店員たちに支持されての受賞。ライブでは20歳の時に友人たちに向けて書いたという表題曲「Runaway」を披露し、柔らかくも力強い歌声を響かせた。

一方、RINGOMUSUME(りんご娘)は結成20年目を迎えた青森のご当地ダンス&ボーカルユニット。メンバーの卒業と加入を繰り返しながら活動を続けてきた。リーダーの王林は「みなさんの応援がこのような結果につながったと思います。この応援を青森だけでなく、全国のみなさんに返していきたい」と津軽弁で喜びを語り、4人でエレクトロ・ディスコ・ナンバー「RINGO DISCO」を披露した。

続いて発表されたのは、部門賞。クラシック、歌謡曲、ライブ映像部門から、各1作品ずつ。ジャズと洋楽部門からは特別賞を含めた2作品が発表された。注目したいのは、洋楽部門の特別賞を受賞したTOOLの『FEAR INOCULUM(フィア・イノキュラム)』だ。TOOLは1990年代から活動を続けているアメリカのポスト・ロック/メタルバンドであり、世界的な人気を誇るベテラン・アーティストだ。『FEAR INOCULUM(フィア・イノキュラム)』は、彼らにとっての13年ぶりの作品。重低音を効かせたヘヴィな演奏とプログレッシヴ・ロックやポスト・ロック、メタルのエッセンスをミックスしたアレンジは、2019年のロック・ミュージックの一つの到達点であった。なによりこの作品は、パッケージを開くと動画とアルバム収録曲が同時に再生されるという前代未聞の仕掛けによってリスナーを驚かせた。日本以上にCDパッケージからストリーミングへの移行が進んでいるアメリカにおいて、TOOLはアイデアとクリエイティヴィティを持ってCDに新たな価値を付与したのである。このアルバムの価値が適切に評価されたということに、CDショップ大賞がある意義を感じた。

最後に既に発表済みの入賞と大賞が発表された。THE YELLOW MONKEYや小沢健二のような復活・再結成を果たしたベテランの待望作、あいみょんやKing Gnu、Sumika、BiSHといった新鋭のJ-POPアーティストの作品、さらには椎名林檎、サカナクション、スピッツといった日本語ポップスのフロントランナーの傑作から、Tempalay、DYGLなどのワールド・ワイドに活躍するインディ・アーティストのアルバムまで、全15作が入賞として紹介された。

今回入賞アーティストから受賞発表収録に出席をし、コメントを寄せたのは長谷川白紙とパソコン音楽クラブだ。彼らはどちらも宅録からスタートし、インターネット上で楽曲を発表し続けてきた。そしてネットレーベルMaltine Recordsから作品をリリースし、脚光を浴びたアーティストである。インデペンデントなインターネットレーベルからその名が広まったアーティストが評価され、さらには新たなトラック・メイキングやソングライティングの形を示した『エアにに』と『Night Flow』が入賞を受賞したことは日本の音楽シーンの変化を感じる瞬間であった。

発表収録に出席したパソコン音楽クラブの柴田は「自分たちの好きなことを詰め込んだ作品がこのような形で評価されたことに驚きました。嬉しいです。」とコメント。

長谷川白紙は『エアにに』を「わけがわからない作品です」としながらも、「徹底して他者性を追求した作品。だから自己の発露とかはあんまりないですね。」と作品について語った。(ちなみに今後の抱負は『デカい本棚を買いたい』とのこと。)

長谷川はステージで「あなただけ」を歌唱。ピアノとMac Bookを操りながら、複雑かつポップなメロディラインを歌いこなし、『エアにに』の世界をステージ上に再現した。さらには、サプライズで未発表の新曲を弾き語りで披露。清廉な印象のメロディを、子音を浮かせるようなファルセット・ボイスで丁寧に歌っていく。『エアにに』とは全く違う印象を与える新曲からは、彼が新たな音楽表現を追求していることがうかがえた。

そして、<赤>大賞に選ばれたのはOfficial 髭男 dismの『Traveler』。「Pretender」、「宿命」、「イエスタデイ」といった2019年を席巻した大ヒット曲を収録したこのアルバムは、J-POPマナーに則ったポップなメロディと、世界の音楽シーンとリンクした野心的なアレンジメントを試みたもの。まさに「何度でも聴きたいアルバム」として選出されるのは納得の傑作だ。

<青>大賞に選出されたのはカネコアヤノ『燦々』。素朴で力強い声とメロディで、日常の風景や瞬間を切り取った12曲を収録したアルバムは、彼女自身のアーティストとして魅力を遺憾なく発揮したものになった。

カネコアヤノはアルバムから「愛のままに」を弾き語りで披露。いつも以上にエモーショナルに声を張り上げながら「みんなには恥ずかしくて言えはしないけど/お守りみたいな言葉があって/できるだけ/わかりやすく返すね/胸の奥の燃える想いを」というフレーズを歌う。その姿からは「自分が歌いたい言葉とメロディを歌う」という彼女のアーティストとしてのスタンスと、音楽の持つ純粋な力を感じた。カネコアヤノの歌はライブやイベントが中止や延期を余儀なくされている今だからこそ、聴かれるべきだ。

日本の音楽シーンの変化と、新しい可能性を感じさせたCDショップ大賞2020。この音楽賞は音楽の聴取環境や価値観の変化に応じて、変わっていかなければいけない点も多くあるだろう。しかし発表収録にコメントを寄せたCDショップ店員やアーティストのパフォーマンスを観て、音楽を売り聴く人が選ぶアワードが日本の音楽シーンに存在することは、大きな意味があるように思えた。

今年もすでに、新たな日本のポップスの可能性を感じさせる作品が数多くリリースされている。次のCDショップ大賞はどのような作品、アーティストがこの賞を受賞するのだろうか。


(吉田ボブ)

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